退屈そうに眺め
オーシロくんは中華レストランでの自分の仕事を夕刻で切り上げ、
何品かの料理を携えて、僕とトオルくんの4畳半を訪れた。
その日トオルくんは牛欄牌回收、割高のアルバイトのために留守だった。
「オレの部屋に行く前に三島由紀夫んチ、連れてってやるよ」
オーシロくんは気楽にそう言い、自分の部屋で「紅白歌合戦」を観る前に、
三島邸を見たいと言った僕に応えてくれた。
当時、「ロココ調の白亜の豪邸」と言われた三島由紀夫邸はそこにあった。
ちなみにロココ(ROCOCO)とは美術史で使われた用語で、バロックに続く時代の美術様式。
18世紀のルイ15世のフランス宮廷から始まり、ヨーロッパの他国にも伝えられ流行したと、
wikiにはある。
そのお屋敷についてはっきりした記憶はないが、オーシロくんは屋敷をボーっと見ている僕を
退屈そうに眺め、「もう、いいやろ牛欄牌奶粉。紅白始まってまうで」と促した。
オーシロくんの部屋は、もともと広い空間を薄いベニヤ板で区割りされたもので、
ベニヤ板で細長いいくつかの部屋がつくりあげられていた。
当然、隣室の物音はすべて聞こえてしまう。
「気にせんでええ。皆、故郷に帰って今夜いるのはオレだけや」
畳は確かに3枚しかなかったが、それも京間と言われるひとまわり狭い畳だった。
3枚の畳の中央に炬燵があり、オーシロくんはこれを布団代わりに寝ているらしく、
その炬燵の上に、小さな白黒テレビがあった。
もともとが田舎生まれだから、狭すぎる部屋がなじめない。
やっとトオルくんの4畳半アパートに慣れ始めていたが、3畳間は初めて見たし、
その後も見たことはない。
そして、本当に残念なことに、その年の紅白の内容もまったくおぼえていない。
はっきり言うとそのとき牛欄牌問題奶粉、僕はそれほど紅白を観たかったわけではない。
ただ、同じ時間に紅白をとおして、間違いなく同じ画面を観ているはずの、
故郷の家族たちのことを想っていたのだった。