これこそ
そして今また、目の前を飛んでいる。
(あれは誰から出た蝶なんだ?)
気になったオレは蝶の出所を探すことにした。
長い長い放課後の廊下。
静まり返った真っ白な廊下を一人歩く。
目の前には光を纏いながら舞う一羽の真っ白な蝶の姿。
(どこに行くんだ?)
夕日に反射して橙に染まる純白の蝶。
角を曲がったその蝶は、主を見つけたかのように一回転すると、ある人物の中へと吸い込まれて消えた。
(あ、アイツ・・・)
窓から外を眺めている青年。
確か、同じ学年だったはず。
首まである黒髪に両耳に開いたピアス。
バンドでもやっていそうな整った容姿。
(まさに、モテ要素の塊)
そいつが窓から見ている先。そこには渡り廊下を歩いている平凡な顔立ちの女の子がいた。
(へぇ、意外)
一見、地味に見える少女はよくよく見れば可愛らしい顔立ちをしているが、どう見てもこの男とは真逆のタイプだった。
(同じ学年では見ない顔だな。一つ上か?)
「あ・・・」
ひらひら。ひらひら。その女性をめざして再び蝶が舞う。
しかし、彼女の胸の花にとまることはなく、蝶は彼女の周りを優雅に舞っては何度も浮遊した。
(ああ、これは・・・)
相手にさえ認識されていない蝶。それはアピールするように相手の周りを飛び続ける。
(こいつの一方的な片想いなのか)
それが相手に認識されていない人間の、淋しい恋を現す証拠だった。
(あ・・・)
ふっ、と今まで無愛想だった男がやさしく笑う。
その顔につい、オレは口を開いてしまった。
「あの人に告んないの?」
「・・・っ」
チラリッとこちらを見るそいつ。
今まで気付かなかったのか、オレの姿を確認したあと驚いた顔をしていた。
「あの人と・・・」
「お前には関係ないだろ」
あからさまに機嫌が悪くなったそいつ。
そいつはそのまま方向転換するへと足早にいなくなってしまった。
(あー、やっちまった)
これこそ、小さな親切大きなお世話だ。
(いらぬ、お節介だったよな)
だけど、声をかけらずにはいられなかった。
(あの顔・・・見たらな)
自分は知ってるけれど、相手は自分のことを知らない。
だから始まることのないツライ恋。
それを見て見ぬふりなど、オレには出来なかった。
(見てるだけじゃ、何も始まらないのに)
それでは、あの蝶があまりにも可哀想だ。